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2009/04/18

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図書館情報学校の遠隔授業

ピッツバーグ大学情報学校図書館情報学専攻では、多くのオンラインで受講可能な講義が提供されています。職のある人、大学から遠くに住んでいる人などを中心に、多くの院生がオンラインのクラスに登録しています。

詳細はこちらから。
 

オンラインクラスの形式とニーズ

ピッツバーグ大学情報学校図書館情報学専攻は、遠隔教育に力をいれており、多くのクラスがオンラインで受講可能です。このため、遠隔地で在住の学生もおおく、授業によってはカリフォルニアやはてはニュージーランド在住の学生が登録していることもあるようです。例えば、日本でも有名なピッツバーグ大学医療センター(UPMC)を抱えていることもあり、医学図書館分野のコースが有名なので、これに関連するクラスには遠隔地の学生が登録しています。
 
オンラインで受講可能なコースには2種類あります。

1つは、オンラインスチューデントとオンキャンパススチューデントの両方が共存している形式です。授業ごとにやりかたは色々工夫されていますが、基本的には、対面の通常のクラスをビデオで撮影し、それを翌日にはオンラインに掲載し、オンラインスチューデントはそれをみてクラスに参加するという形式です。私が受講したクラスの中では、半分がこの形式のものでした。

もう1つは、全員がオンライン・スチューデントのみのクラスで、一部のクラスがこの形式をとっています。私自身は、せっかくアメリカにいるので、このような授業はあまり取りたくないなとおもっていたのですが、経験のためにもと、1クラス、図書館経営の授業をこの形式でとりました。
 
以下この授業を紹介します。
 
オンラインクラスの実際-図書館経営論

図書館経営のクラス、正式名称は、”Managing Libraries & Information Systems & Services in Changing Environments"で、全員必修の基礎科目となっています。2009年春はオンラインのみの提供で、登録者数は、40名強です。

内容としては、図書館を取り巻く社会環境の変化が、図書館と利用者にどのようなインパクトを与えるのかを理解し、それをもとに実際の図書館経営を実践的に考えていこうというものです。具体的には、経営理論の理解、戦略的計画立案の重要性の理解とその計画立案のスキルの習得、資金調達のスキルの習得、予算管理の習得、利用可能な経営資源と業界団体を知ること、協同プロジェクトにようする対人コミュニケーションの技術の向上、などです。並べて書くとお題目が並んでいるだけのようですが、実際のクラスはかなりこれに忠実で、”スキルの習得”と書いているものは、本当にそのスキルを習得したことを、レポートなどを通じて証明することが求められます。
 
インストラクターは、スーザン・アルマン博士で、ピッツバーグ大学の遠隔教育を早くからリードしてきた人で、このテーマで何本か論文も書いています。学生に対する要求事項が大量・多岐なので、学生からはちょっと恐れられています(笑)が、非常に入念にクラスが編成されていて、感心させられること多々です。
 
課題の内容(カッコ内は評価対象となるアウトプット)は以下のとおりです。

  1. QUOTABLE QUOTES: 用意された有名な引用文について論じる(小レポート)
  2. MANAGEMENT STYLES: 著名な経営理論家・実践家の経営理論・哲学を論じる(小レポート)
  3. PROFESSIONAL ASSOCIATION ASSIGNMENT/INTERVIEW: 現職図書館長や経営人にインタビューする(中レポート)
  4. HOT TOPIC PRESENTATIONS:図書館経営分野のホットトピックについて3,4人のグループでプレゼンを作成し、クラスに提示し、一週間オンラインディスカッションをリードする。(プレゼン、ディスカッションリーダー、ディスカッション)
  5. MANAGEMENT PORTFOLIO: 実在もしくは仮想の図書館の、実際もしくは仮想のマネージメント・ポートフォリオを、3,4人のグループで作成する。(大レポート)
  6. GRANT PROPOSAL: 実際あるいは仮想の資金調達ニーズを設定し、その資金調達のためのプロポーザルを作成する。(大レポート)


2つのグループプロジェクトでは、グループメンバー間の契約文書を作成し、コミュニケーション手段、スケジュール、分担などを事前に決めるところから始まり、プロジェクト自体が、マネージメントの実践練習であり評価対象となっています。グループが崩壊すれば即単位喪失らしく、先の学期にとった友人は、これにはまってしまい卒業が延びたそうです。。実社会と一緒で、働かない人はほんとむかつくほど働かないので、結構どこのグループも衝突があるようです。

ホットトピックは、毎週持ち回りになっており、学期の間に1トピックを担当します。テーマは以下のとおりですが、最初の2週で”紛争”解決と、チーム構築が設定されているのが興味深いところです。実際、この2週のプレゼンはパワーポイント40スライド+ビデオつきという気合の入ったもので、これが学生の一種の共通言語となり、その後のプロジェクトマネジメントに大きく影響していました。(マネージメントポートフォリオのほうのグループプロジェクトで、私の入ったチームで、1人が働かず、もう1人がぶちぎれる、という”紛争”が勃発してしまったのですが、おかげさまで何とか紛争は収まりました。)


  • 1週目:紛争解決
  • 2週目:チーム構築
  • 3週目:多様性
  • 4週目:電子化
  • 5週目:資金調達
  • 6週目:図書館建築
  • 7週目:ネットワーク
  • 8週目:スタンダード
  • 9週目:アウトソーシング
  • 10週目:経営倫理


難しいのは、このコースがオンラインのみであるために、まったく学生同士が顔もバックグランドも能力もしらないまま、コミュニケーションをしていくところです。インストラクターいわく、オンライン環境で仕事をしなくてはいけないという”社会環境”を意識したものだそうですが、ほんと大変です。私の経験の限りでは、グーグルのメールアカウントを全員が取得し、共有ドキュメントをフル活用しながらやるのが一番すんなりいく形で、グーグル嫌いも説得されて使うようになっていました。(他の授業でグーグルのアカウントを強制的に取らせる授業があるので、学生のグーグルアカウントの保有率は非常に高いと思われます。一度、とある授業で挙手する機会があり、9割方手をあげていました。)

私は資金調達を担当したのですが、プレゼン作成はともかく、ディスカッションリーダーが大変でした。ディスカッションは、クラス40名がA、B2つのグループに分けられており、それぞれ20名ほどのメンバーのところに、作成したプレゼンを提示します。A、Bそれぞれの中、20名ほどがプレゼンにああだこうだと意見をいうので、ディスカッションリーダーは、それに対し回答を提示したり、逆質問したり、誘導したりしながらディスカッションを構築していきます。チームメンバー4人のうち3人がAに所属し、私だけがBだったので、1人でこの役をはめになり、1週間の責任期間で胃がいたくなりました。これも全部モニターされていて、評価対象。疲れます。

学生間の紛争からその解決までも含めて、経営の様々な側面が直接的・間接的に経験されるように仕組まれている、このクラス。考えたスーザンを尊敬します。
 
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図書館情報学校の生活

2007年秋から2009年春にかけて、4学期間に渡って、ピッツバーグ大学図書館情報学校に在籍してきました。2006年の夏から本格的な準備が始まったので、思い起こせば3年近い時間を、このために費やしてきたということになります。
 
以下、あまり数値を交えず、私のみた図書館情報学校の姿を、印象ベースで手短に紹介したいとおもいます。
 
詳細はこちらから。
 
ライブラリースクールの存在感
 
日本のみならず、多くの国で非常にマイナーな学問領域ですが、米国では、図書館員という肩書きを名乗れる図書館員になるためには、図書館情報学の修士号をとることが必須ですし、図書館員という職能集団自体が社会のなかでなかなかの存在感があるので、図書館学も盛んです。
 
渡米した当初、アメリカ人と出会い自己紹介で専攻をライブラリーサイエンスと紹介すると、おぉ!という反応が返ってきました。広く認知されている学問領域であり、また興味をもたれている領域であることを、肌でかんじました。逆に、海外からの他学部留学生と話をすると、へぇ、そんなのがあるんだね、とか、アメリカにきてから知ったよその学問、という反応です。日本人留学生に限っては、なにそれ?なにするの?という反応が大半で、それは日本にいてもアメリカにいても変わらない感じですね。
 
ライブラリースクールの雰囲気
ピッツバーグ大学の場合、正確にはSchool of Information Sciencesという名称で、この情報科学学校の中に、図書館情報学、情報学、テレコミュニケーション学の3領域があります。情報学領域には、中国、台湾などからの留学生がたくさんおり、またテレコミュニケーション学領域には、中東からの留学生がたくさんいて、いい感じで混じっていますが、図書館情報学領域は圧倒的に白人ばかりで、留学生は毎年数えるほどしかありません。さらに、図書館情報学の中でも、アーカイブ系には男性学生がたくさんいますが、図書館系には、圧倒的に女性ばかりという印象です。
 
私と同じ時期に入学した留学生には、中国からの若い学生がいましたがみんな情報学のほうに専攻変えしてしまい、残ったのは韓国の国会図書館からの留学生と、私だけ、というような状況でした。英語ノンネイティブはほんと数えるほどです。アジアは顔ですぐにわかりますが、そのほかひっそりクラスにいる東欧や中南米からの学生を見つけるとうれしくなります。
 
修士号取得への仕組み
ピッツバーグ大学図書館情報学校修士課程の場合、卒業するためにとらなくてはならないクラスの数は12クラス。1学期にとる授業は3クラスから5クラス。ネイティブでフルタイムで大学院生では5クラスとる学生もおり、実質1年で卒業することも可能になっていますが、留学生は、3クラスを4学期とるというのが一般的です。授業1クラスをとると、そのために教室外で週10時間程度費やすことになるので、3クラスとると、週休2日で働いているのと同じくらいの労働量になります。博士の授業をとることも可能で、これをとると労働量がどんと増えます。どのくらいの時間を費やすのかはもちろんその人それぞれの考え方ですが、私のまわりにいた人たちは、ネイティブも留学生も、なんとなくそんなリズムでいる人たちが多かったような気がします。

私の場合は、2007年秋3クラス(プラス英語のクラス)、2008年春4クラス(内1つは博士、1つドロップ)、2008年秋4クラス(内1つは博士)、2009年春3クラス、という構成になりました。博士のコースでとったのは、質的調査法と情報政策で、とくに情報政策は今年退官される元ディーンのクラスでタフで有名なもの。週30時間くらいをこれにつぎ込み、寝ても明けても政策政策唱えているモンクのような生活になってしまいました。

とったクラスの一覧は以下のとおりです。

  • 2007年秋
     Understanding Information
    Retrieving Information
    Digital Library
  • 2008年春
    Organizing Information
    Marketing & Public Relations for Libraries
    Qualitative Research
    Independent Study
  • 2008年秋
    Introduction to Information Technologies
    Library & Archival Preservation
    Service for Adult
    Information Policy
  • 2009年春
     Managing Libraries & Information Systems
    & Services in Changing Environments
     History of Books, Printing, Publishing
    Government Information Resources & Services


クラスのタイプ
クラスの形式としてはは、
・大人数のものと、少人数のもの
・遠隔講義のものと、教室でおこなわれるものと、複合型のもの
・講義形式のものと、セミナー形式のものと、それ以外
で3つの軸で分類けられます。

大人数のクラスは、ほんとうにわらわらと人がいます。日本の図書館情報学大学院では想像できない姿かもしれませんが、60人超の人数が登録しているクラスもあります。このようなコースは多くが基礎科目で、入学したてのきゃんきゃんした人たちもおおいので、雰囲気は、日本の学部レベルの司書課程と若干似たようなところがあります。

少人数のクラスは、10人くらいの規模のものもあります。アメリカの大学生はよくしゃべるので、3時間のクラスの半分くらいは学生の話を聞いている感じです。もっとも、多くが現職・前職ありの人たちで、平均年齢は30歳を超えるくらいだそうで、日本の社会人大学院のような雰囲気です。セミナー形式だともっと大変で、教授よりも院生のほうがよくしゃべっています。

ピッツバーグ大学の場合、遠隔授業が充実しているのも特徴です。基礎科目も含め講義形式の授業はほとんどビデオで撮影されており、オンラインにビデオがアップされます。オンライン授業の登録者は多く、教室に来ている人の数と同じくらいがオンラインの授業もありますし、またオンラインのみで提供されている授業もあります。オンラインの授業は、学生は掲示板やブログやWikiなどに発言を書くことをもとめられ、20人もオンラインがいると、結構な分量の文章がオンラインに書き込まれます。クラスによっては全部読むことが求められるので、英語を読むこと自体勉強のレベルの私には、しょーじき、とても苦痛。。
 
読書量
アメリカの院生のリーディングの課題の量はハンパじゃないと聞いていましたが、私のとったコースはそれほど深刻なものはありませんでした。1週間に読む量は、1クラスにつき、多くて50ページくらい、少ないクラスでは1章20ページくらい、というところです。一番少なかったのはインフォメーションテクノロジーや電子図書館など、技術系の授業。一番読書量が多かったのは博士セミナーの情報政策で、「すくない量の文章をじっくりよんでじっくり考えてほしい」といいながら熟読用に50ページほどを毎週、というものでした。
 
書く量
書く量は、レポートと、オンラインに発言として書き込んでいくものとが主です。レポートは、参考文献つきのフォーマルなもので、レポートの分量は、期末レポート的なものとして大体20ページを求めるものが多く、それ以外に、ちょこちょこと数ページから10ページくらいの、短かいレポートをかきます。

日本語で出版レベルの文章を書いた経験から、日本のこの業界でおよそ出版できるレベルというのはわかっているつもりですが、レポートはそのレベルを書かないと、悲惨な点数がついてきます。最初のうちは、大学のレポートだし、、と少しあまくみていたのですが、留学生といえども文法ミスなどでも点数をひかれますし、内容で至らなければ容赦なしです。痛い目にあいました。
 
振り返ると結構な分量を書いたことになります。日本ではこんなに書いたかしらん。。
 
オンラインの発言は、1回に求められる分量は200ワードとかそんなものですが、多くのクラスで毎週のように書くことが求められます。最初のころは手元にバックアップをとっていなかったのですが、最後の学期、手元にまとめてみたところ、結構な分量になっていて、ちょっぴりうれしくなりました。
 
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大枠はこんな感じです。クラスごとに印象深かったことがそれぞれあるので、それはまた別の記事に書きます。