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2008/12/31

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古き良き教育の歴史を現代に残す図書館:ポーランド分館図書館現地レポート

オハイオ州ポーランドは人口3000人弱の小さな町です。その歴史は古く、1796年に創立し、19世紀にはいくつもの学校や大学が集まり、この地域の教育の中心地としての地位を築きました。中でもポーランドアカデミー公立学校は誉れ高く、第25代大統領のウィリアム・マッキンリーが学んだ学校としても知られています。歴史ある学びの町の図書館は、その歴史に対する街の誇りを感じさせる美しい図書館です。

詳細はこちらから。
Public Library of Youngstown and Mahoning County
http://www.libraryvisit.org/projects.htm



ポーランド分館図書館(Poland Branch Library)は、マホーニング郡とその郡都であるヤングスタウンの公共図書館システムである「ヤングスタウン及びマホーニング郡公共図書館」の1分館で、新館建設及び改築のプロジェクトにより、2001年にオープンしました。この町の図書館としての歴史は1935年にまでさかのぼります。

グリーンアーキテクチャー


この図書館の建物は、もともとポーランド・ユニオン神学校の学生寮だったもので、その後個人・法人によって長らく使われていたものを譲り受け図書館に改築したものです。アメリカの環境配慮型建築である”グリーンアーキテクチャ”を基本コンセプトとし、屋根や床、ガラス窓、さらには駐車場まで、あらゆる部分にリサイクル素材を使用しています。公共建築におけるグリーン秋テクチャの優良事例として雑誌等にも紹介されています(例:Clem Labine's Traditional Building)。

120台分ある駐車場のアスファルトは、アスファルトとタイヤのリサイクル素材。


床板は古い納屋の床に使われていたものを再利用。


ガラスは廃ガラスを15%使用している。ふんだんに外の光を取り入れ光熱費の節約にも貢献。




またテーブルや椅子、絵画や工芸品などは、地域の職人や芸術家のものをできるかぎり取り入れているそうです。特に椅子はとてもすわり心地がよく、大人用の学習スペースだけでなく、子供のスペースの椅子も同じデザインの手作りのものを使用していました。小さな女の子がちょこんと姿勢よく座って本を読んでいるのが印象的でした。





写真スライドショー




古き良き教育の歴史を持つ町の誇り


開館してまもなく、オハイオ州知事も視察に来て、この環境に優しい図書館建築を率直に賞賛し、間違いなくポーランドの町の、またオハイオ州のランドマークだと述べたそうです。

田舎の古い木の家で育った私にはどこか懐かしく、これはしばらく滞在しなくてはもったいないと、きれいに飾り付けられたクリスマスツリーの前の椅子に席をとりました。のんびりと撮った写真を整理していると、1人の女性が本をたくさん抱えてやってきて、写真を撮っていた方よねと、話かけられました。彼女は、今近くの町に住んでいるそうですが、今新しい家をこのあたりに探しているそうです。今の図書館がさびしい限りで、今日初めてこの図書館に来てみてこの町に引越しする決心が固まった、とおっしゃっていました。図書館カードもこんな可愛いのよと、手にした新しい図書館カードをうれしそうに見せてくれました。
 


古き良き教育の歴史を持つ町の図書館は、落ち着いた、環境にも人にも優しい図書館でした。
 

2008/12/29

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全ての知へのゲートウェイ:サウスフィールド公共図書館現地レポート

デトロイト都市圏のライブラリアンが皆「サウスフィールドはすばらしい」と口をそろえるサウスフィールド公共図書館に行ってきました。2003年に新しい建物を建て最先端のサービスを展開している図書館ですが、実は資料では1844年あたりから活動が確認される歴史ある図書館です。以前1980年代90年代と日野図書館と交流があったといえばなんとなくうなづけるものがありますが、今のサウスフィールド図書館の姿は、市民のニーズに基づいて同時代性を追い続けると図書館はこう進化するのかと、思わずうなってしまう図書館です。

詳細はこちらから。

Southfield Public Library
http://www.sfldlib.org/



建築の背景


デトロイト中心部から高速にのって車を20分ほど走らせたところにあるサウスフィールドは、多くの大企業がオフィスを構える商業地区であり、なおかつ中心部から郊外へのミドルクラスの人たちの移動の中で人口も増加してきた地域です。1970年代までにユダヤ系、90年代までにミドルクラスの黒人が移住し、現在は白人約40%、黒人約55%という人口構成になっています(参考:DataPlace)。オフィススペースはデトロイト中心部よりも多いともいわれ、ローレンス工科大学やオークランドコミュニティ大学など8つの大学が図書館から数マイルの距離にあります。この勢いよく発展を続けた地域で、図書館を時代のニーズにあった最先端のものにしようという運動がおこったのが90年代後半で、その後99年に3600万ドルの新図書館建築費用の目的税が市民投票によって承認されました。新図書館建築をリードした当時の館長Doug Zyskowski氏は、新しい図書館を、”我々が知る全てへの、また我々が知ることを夢見てきた全てへのゲートウェイ”となるものにしようと強力なリーダーシップを発揮し、また奇抜な建築アイデアもどんどん取り入れていったそうです。様々な機会・方法を通じて集められた市民のニーズに基づき設計は進められてゆき、2003年に時間的にも予算的にも計画どおりに建設が行われ開館しました。

子供が「行きたい!」という場所


ディズニーランドや映画など、子供が行きたい!という場所はたくさんありますが、子供が「図書館に行きたい!」と駄々をこねるほどの図書館というのはなかなかない気がします。が、この図書館は、そういう図書館なのだそうです。この図書館は12歳以下の子供は親と同伴でなくてはいけないというセイフティー・ポリシーがあります。実際広大なアメリカのこと、移動手段の限られる小さな子供がくるのはちょっと難しいものがあります。それなのに、年末のこの日も小さなよちよち歩きの子供たちから高校生ほどの年齢と思われる子供たちまで、図書館は活気に満ちていました。児童室のライブラリアンに尋ねたところ、これがなんとなく普通という感じの状態で、近隣の学校が終わったあとの時間帯は、毎日大騒ぎで、子供たちが大人たちを引っ張ってくるのだそうです。

確かに魅力的です。Reader's Tree houseやDragon's Denと名づけられたコーナーは、居心地がよくて小さな子供たちはそりゃぁ大好きだわという空間でしたし、、Club Q&Aは名前のとおりちょっとしたクラブのようで中高生がここで時間をすごすことをカッコイイと思うのもうなずけました。コンピュータ端末も、グループ学習室も、どこもいっぱいで、年末なのに子供たちは楽しげにわいわい勉強していました。家具は皆木製でとても優しい感じでした。

Reader's Tree house


木の裏側には暖炉があり、暖炉の前にはチェスボードがありました。ぽかぽかで幸せ。


木の中も居心地よさそう。


Dragon's Den
手前の入り口の天井部分は大きな本。


近づいていくとドラゴンの吠える声が聞こえてくる。アミューズメントパークそのもの。


Club Q&A
ティーンコーナーはクラブっぽいつくり。これが図書館のメインエントランスを入ってすぐ左の一等地にある。


大人がちょっとよい身なりで出かける場所


どちらかというと成人向けの2階、3階を歩いていてとても気になったのが、大人がとてもおしゃれなかっこうをしているということでした。ガラス張りのグループ学習室は、明らかに仕事の最中と思われるゴージャスなみなりの女性が連れ添って利用し、ビジネスレファレンスのコーナーでパソコンをたたく人もやり手の空気をかもし、暖炉の前で本を広げる白髪の男性もとてもエレガントな立ち居振る舞いをし、なにかおしゃれが気になりました。もちろんカジュアル派もあたりまえにいましたが、今まで見てきた他の図書館ではありえないほどおしゃれな格好をしている人がおおくいました。高所得層なのかと思い、後で館長とお話をしたときにこそっときいたところ、そういうわけではなく、図書館にそういう機能と空気があるから、みんな自然にそうなっているのだと思うという返事が返ってきました。確かにビジネス向けの資料が充実し地域の研究図書館的な役割を果たしており、ビジネス目的での勤務中での利用が多いのは確かだそうです。

無線も図書館IDなしでログインできました。


人が多すぎて写真がうまくとれず。デスクスペース、コンピュータスペースは撮影は不可能でした。


館長室へ


この図書館は館長クラスの人とお話をできればと思っていたのですが、カウンターのライブラリアンが、私が言うよりも先に撮影が終わったら館長のデイビッドに会いに行ったらいいわと勧めてくださいました。一通り撮影が終わり館長室に訪ねていくと、デイビッドさんが笑顔で迎えてくださり、自慢のサウスフィールド・ルームに案内してくれました。この部屋は理事会などが行われる部屋で、実はハリウッドの映画の撮影現場にもなったそうです。1日あたり1000ドルほどの使用料収入が得られたとか・・・。


なぜこのように成功を遂げることができたと問うと、市民・地域との関係だとの答えが返ってきました。地域に8つある大学からの期待、地域の企業のビジネスパーソンたちとの関係構築、地元の人たちのあらゆるニーズに応えようとしてきた歴史、そういったものが図書館建築目的税の承認、内装の装飾品や蔵書の寄付寄贈、圧倒的な利用頻度などにつながってきたのだそうです。現館長はこの図書館建築後に他の図書館から引き抜かれてきたので当時のことは聞く範囲でしかないとのことでしたが、現在の不況・財政難の中にあっても、「この利用者の行列をなしている様子を見てごらんよ。絶対にサービスの質は落とせない。」と笑顔の奥に真剣なまなざしで語ってくださり、その姿から常に市民との関係を最高の状態に保っている図書館の底力を感じました。

写真スライドショー


利用者が多すぎて撮りたい場所の写真がうまく撮れませんでしたが。


サウスフィールド公共図書館提供の写真 on Flickr
http://www.flickr.com/photos/southfieldlibrary/

ひとこと感想


この図書館、もし機会があれば、ぜひどこかでもっと紹介したいと思います。
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気になるデータベース:DataPlace

先の大統領選で、地域ごとに青だの赤だの、この地域はどのような人種が多いだのといったことをCNNなどがしきりと解説していましたが、今後どうなっていくべきかは別として、現状ではこのような地域の人口の特性の分析がいろいろなものの基礎になります。もちろん米国の公共図書館の理解にも、抑えておくべき要素のひとつです。2006年にPlanetizanのトップ10ウェブサイトにも選ばれた、KnowledgePlexのDataplaceは、手軽に無料で使える統計ツールとしてとても重宝します。人種別、年齢別等の人口密度や持ち家率など、複数都市間の比較や地図の作成などをしてくれます。

詳細はこちらから。

DataPlace by KnowledgePlex
http://www.dataplace.org


 
DataPlaceのよいところは、どのような情報源を使ったのかがきちんと確認でき、さらにその情報源もきちんと信頼できる情報源が使われていること、さらに作成したデータをウィジェットとしてブログやウェブサイトに簡単に貼り付けることができることです。

ためしに、今回訪問しているデトロイト都市圏の白人比率の地図のウィジェットを作成してみました。今回訪問する図書館のうち、サウスフィールド公共図書館はデトロイト中心部と同様白人比率が低く、ウェスト・ブルームフィルドやクリントンは白人比率が高い地域になっています。


DataPlaceは今後も情報源が追加していく予定だそうなので、これからもっと使えるツールになってくれそうです。

2008/12/28

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教育を第一に掲げる図書館:ウェスト・ブルームフィルド公共図書館現地レポート

デトロイトの西の郊外に広がるウェスト・ブルームフィルドというタウンシップにある公共図書館に来ました。この図書館は1934年にKeego Cass Women's Clubという公共心あふれる女性グループの手によってはじめられた図書館で、その後1937年からタウンシップによって運営されています。市民の図書館税を運営資金として運営を続け、1984年に開館した現在の建物も苦境を乗り越えて図書館税の承認を得、建設にいたりました。現在もその伝統を引き継ぎ、潤沢な資金に支えられた図書館として充実したサービスを提供しています。

詳細はこちらから。

West Bloomfield Township Public Library
http://www.wblib.org/



撮影の許可をもらう


図書館での撮影は、いつも気を使っていて、アポなしの図書館見学のときは必ずインフォメーションカウンターで撮影の可否について確認するようにしています。持ち歩いているのがキャノンの一眼レフなので、こそこそ隠れてとれるものでもないですし、またこそこそとったところで資料としてはまったく使えない写真になってしまうので、館に入って空気を掴んだら、まずは撮影許可を念押しにいただくようにしています。これをすると安心してどうどう写真撮影ができます。

館のポリシーをしっかり把握しているやり手とおもわれるライブラリアンの人を探して確認することが鉄則で、この会話のときに自分の立場を明かしたりして、親切な人であればいろいろなパンフレットやらイベントカレンダーやらをいただきます。最初のころはおっかなびっくりでしたが、米国の図書館員さんはたいてい親切に「撮影はOK」といってくれます。時にはそれに続いて、「人(特に顔)が入り込まないように気をつけて」とか、「児童室はそこのライブラリアンに確認してね」といったアドバイスをいただいたり、逆に撮影ポイントを教えてくれたりします。できるだけライブラリアンの名前も聞くようにし、後でほかのライブラリアンと話をするときに、「あそこのカウンターで○○さんに確認したのだけれど、ここコーナーでの撮影は大丈夫?」といった風になんども確認しながら、新しい会話を作っていったりします。

この日も入館してインフォメーションカウンターにゆき、若手の元気そうな男性図書館員に確認し、素性を伝えると、とても親切にいろいろな資料をくださいました。さすが米国のすばらしい図書館トップ100にも入るような図書館は、このような対応もこなれています。

充実の児童サービス


この図書館は特に幼児サービスに力を入れている図書館で、ライブラリアンが脳の発達理論や教育理論をしっかりと研究し、裏づけをもってサービス設計をしています。入室して真っ先に目に飛び込んでくるカラフルな部屋の様子はまさにその実践の1つです。パペットコーナーや学習スペースも充実しています。

この図書館でもWiiやXboxなどのゲームソフトがコレクションになっており、ヤングアダルト部門とあわせると200タイトルほどあるようです。やはり人気らしく、ゲームの棚はほとんど空っぽというような状態でした。週に2度もゲームのプログラムがあるそうで、完全に図書館プログラムとして定着しているとのことでした。「なぜ?」と聞くと「やらない理由はないわ。今まで絵本の提供から、DVDの提供、コンピュータの提供にいたるまで、多様なメディアを提供してきたわけだし、ゲームもその最も新しいメディアのひとつだもの。」と毅然とした答えがかえってきました。「否定的な意見はないの?」ときくと、「私が知る限り、この図書館では肯定的な意見が圧倒的。」とのことでした。先週の土曜日も午後1時から4時までギターヒーローのコンペティションがあったそうで、なかなかのもりあがりだったそうです。


児童室にもコンピュータが設置してあり、一応念のためフィルタリングがかかっているかどうか確認しようと思い質問したところ、以外にも「右側の半分がかかっていて、左側の半分がかかってない」との返事が返ってきました。よりオープンな図書館と、図書館員等による教育重視の方向性を打ち出し、フィルタリングを入れないポリシーにしたのだそうです。フィルタリングを入れていないパソコンは、開くときに法律を守って利用することに同意するよう確認画面がでます。これは児童室以外においてあるフィルタリングのかかっていない他の端末とまったく同じ確認画面でした。





パペットの貸し出しはこの図書館はしていないとのことでした。


スキャナやオーディオセットも提供


たくさんの人がいたので全体の写真は取れませんでしたが、1階のいちばん中央にパソコンが30台ほど設置されていました。驚きなのは、スキャナーとヘッドセットが全てのパソコンに設置されているところです。これはすごいなと思い確認してみたところ、「スキャナは図書館の資料をスキャニングしたりするのに使うし、映画を見たり音楽を聴いたりゲームをしたりするのにヘッドホンはいるでしょ?」とのことでした。特に学校の宿題などをしに来る生徒が多く、そのためには必須のアイテムなのだそうで、ここでも教育重視の姿勢が全面に出ている感じがしました。大人ばかりが使っていたので大人のためのコーナーなのかと思っていましたが、確かにこのワークステーションの場所は、ヤングアダルトコーナーとCD、DVDのコーナーに隣接していて、児童・生徒が使いやすい空気でした。

ためしにYou Tubeを表示させて、ワークステーションを撮影してみました。


写真スライドーショー




感想メモ


新しいメディアや機器の提供もさることながら、すでに長い歴史を持つ英語等のリテラシープログラム、グループ学習室など、土台がしっかりしていて、その上での新しいサービスの展開が行われていました。遊びの重要性もしっかりサービスに組み込まれ、ビデオゲームだけでなく、盤ゲームもたくさんあったり、グラフィックノベルやマンガのコレクションもなかなか充実していました。幼児サービスから成人サービスまで、教育というポリシーを徹底すると、こういう図書館になるのでしょうか。なにかとても強いインパクトのある図書館でした。