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2009/01/31

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異質が調和する街セダリアの公共図書館:現地レポート

カンザスシティとセントルイスという内陸で発展を遂げたミゾーリ州の2つの街のちょうど間、ハイウェイのI-70から南に外れたところにセダリアという街があります。人口は現在は20,000人ほど。鉄道のインターセクションの町として、鉄道関係の産業が栄え、その後トラックや機械のメンテナンスの基地として発展してきました。しかし、現在は北を通るハイウェイを人が通りすぎ、人口も減少傾向にあります。19世紀後半から1970年代までの営みと、その後の静かな時間の流れ。街は、異質なものが混じりあって調和している、そんなアイデンティティがあるように感じられます。
 
そんなセダリアの街に、現在もそのまま使用されているカーネギー図書館があるので、訪ねてみました。
 
詳細はこちらから。
 
Sedalia Public Library
http://www.sedalialibrary.com/
 
なんども挑戦してようやく建った図書館
アメリカのおおくの公共図書館が同様の歴史をもっていますが、セダリア公共図書館も、なんども図書館設置へ向けた住民の運動があり、そしてようやく建てられた図書館です。鉄道が通り街が大きく発展し始めた1870年前半には、住民グループが、講座や娯楽の提供とともに無料の貸本をはじめましたが、財源がもたず頓挫してしまいました。1870年代後半になり市民意識の高い女性グループが数百冊の本を購入し、無料図書館サービスを試行しました。その後1984念に無料図書館の設置構想が起こるも、一度目の住民投票はあえなく否決。翌年ようやく可決され、税金による図書館サービスが開始されました。
 
その後サービスの発展とともに、新しい建物への要望が高まり、1899年に図書館理事会メンバーがアンドリュー・カーネギーに依頼。この要望が認められ、1901年に現在の図書館が建設されるに至りました。
 

 
建物は地上2階地下1階。地下は児童室、1階は一般資料と参考調査室とコンピュータスペース、2階は学習室とオフィスになっています。足音が響くほどに静かな館内は、コンピュータまでもセピア色に閉じ込めたくなるような、歴史の匂いがします。
 
歴史建造物に指定されていることが入り口横の壁に。

 
入り口を入った正面のカウンターが図書館の中心

 
左の部屋は閲覧室。

 

 
街の歴史がガラスケースに保存されている。

 
気持ちが神聖になる階段をあがり2階へいってみる。

 

 
採光の吹き抜け。

 
100年前からこの空間で街の人が書を読み勉強していた。

 
同じ歴史を呼吸してきた壁際に置かれた本たち。ぼろぼろに読み込まれている。まだ引退はしていない。

 
見学しているうちに、どうかこの図書館はこのまま残し、そして使い続けてほしいと、願いにも似た気持ちが沸き起こってきました。静かに図書館員の方にお礼をいい、何か気持ちがきれいになって図書館の扉を後にしました。ただ、異質が交じり合うこの町の、ほんの一筋の要素しかここにはないような、そんなぎこちない違和感を感じながら。
 
「なにはともあれ、出発」とおもい、車をとめていた駐車場にもどるため交差点を対角線上に横切りながらふと横をみると、"...gional Libr..."の文字にふと目が留まりました。おや?と思い数歩もどって首をのばしてみると、やはり"Library"。どっからどうみても図書館ではないのに。
 

 
中に入っていくと、そこにはガラスのタイルに赤いネオンライトが光るカウンター。今見てきた図書館とはまったく対極な空間がそこにありました。カウンターの若い図書館員に聞くと、数年前まで車のパーツを売っているショップだったとのこと。それを買い取り、改築して、地域分館を作ったのだと。地上1階、地下1階。地上は成人向け、地下は児童室。
 

 

 
ティーンのためのゲームルームまで完備。

 
感想。。
アメリカの図書館は、その町の中心であるといわれますが、セダリアの町の図書館をみて、それは、町から産まれたものなのだから必然なのだということを、実感しました。
 
住民が、図書館が町の顔だということを知っていて、その住民たちが自分たちのほしい図書館を作る。古き時代を愛する人たちがその歴史をそのまま残したいように残す。その図書館をもち、車の修理で生業をたててきた人たちが、その大好きな空間をそのまま図書館にする。画一的な理論を押し付けた紋切り型の図書館建築ではなく、図書館が町のアイデンティティだというところにこだわる図書館建築。若き図書館員に、この赤いネオンはすき?ときくと、「クールよね」と。セダリアの町でこの色の光をみて育ってきたセダリアンには、落ち着く色合いに間違いなく。
 
町の人までかっこよく見えるようになってしまった、そんなセダリアの新旧公共図書館でした。
 
写真スライドショー

 

2009/01/29

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コミュニティを作り続けるジョンソン郡図書館:現地レポート

アメリカの田舎といえばカンザス州。”オズの魔法使い”のドロシーの出身地とされる場所です。このカンザス州を西から走りその田舎っぷりを体感した後、東の端のジョンソン郡図書館を訪問しました。
 
ジョンソン郡はカンザスシティの郊外に広がる地域であり、第二次世界大戦後に発展を遂げ、人口も45万人ほどにまで増加しています。郡とはいえ、高速道路が縦横無尽に走り、車が溢れる都市圏に発展しており、ジョンソン郡図書館中央館はその中にあります。
 
詳細はこちらから。

Johnson County Library
http://www.jocolibrary.org/
 

 
ジョンソン郡図書館は、1952年に設立され、その後中央館と13の分館から構成される図書館システムに発展してきました。設立以来、コミュ二ティを作ることがこの図書館システムのもっとも重要な役割であり、コミュニティを成長させながら自らも発展してきました。図書館カード保有率は85パーセントに上ります。
 
現在の中央館は1995年に新たに建設されたものであり、その後、この図書館はHAPLRでも毎年上位にランクインする実績を残しています。
 
ビジネス支援、地域資料、系図学、レファレンス
ジョンソン郡図書館(中央館)は、充実した成人サービスで定評があります。入り口を入ってすぐに右手側奥には、レファレンスカウンターが大きな存在感を示し、情報提供がこの図書館の大きな柱であることを象徴しているかのようです。入り口を入って左手のところには、貸出デスクが構えられ、そのデスクの置くには予約本がずらりと並び、この図書館の貸出の実績を感じることができます。貸出デスクにいる人たちは、有資格者の図書館員ではないとのことです。
 
レファレンスカウンターを取り囲むように、手前からビジネス支援、地域資料、系図学、レファレンスへと書庫が広がっています。

まずもっとも手前の重要なロケーションを占めるビジネス資料コーナーは、豊富な資料もさることながら、充実したサービスを展開しています。起業、マーケティング調査方法、資金運用方法など様々な情報提供が行われ、さらに図書館員が講師を勤めるビジネス関連の講座も活発に開かれています。
 

 
その奥に広がる地域資料コーナーには、ジョンソン郡の地域情報が豊富に取り揃えられています。奥まったところに押し込められがちな地域資料ですが、ここの地域資料はこの図書館の顔であることを示すかのように、明るい部屋の真ん中におかれています。最近の情報については、インターネットの情報をプリントアウトしてファイリングしたものなども作成されており、「生きている」という感じがしました。
 
地域資料ライブラリアンのスコットさんは、今日はこれからクラスがあるからといっていたので聞いてみると、今日は、写真の保存と発信に関する講座だそうで、教室にいってみると、20名ほどの参加者が集まってきていました。講義の内容は、各自ふるい地域の写真を持ち寄ってもらい、それをスキャナでとりこんで、加工編集して、DVDに保存したり、ソシャールネットワークやブログなどに載せて配信する方法などを教えるとのことでした。参加者は高齢な方々でしたが、ソーシャルネットワークへの掲載方法まで入れてこそ、ニーズにあった講座なのだそうです。すばらしい。
 

 
その奥には、地域資料と系図学のレファレンスカウンターがあります。系図学のレファレンスライブラリアンは1人だけですが、その人を中心にボランティア部隊(メンバーの多くは定年退職された方々)が結成され、このレファレンスカウンターに入っています。系図学の調査は長時間かかるものがおおいものですが、ボランティアの人たちは、系図学にとことん情熱のある人たちで、良き相談役として利用者を支援しているそうです。
 

 
ボランティアの人たちが中心となり、系図学の会というクラブも結成され活動している他、カード目録の要領で、新聞の死亡記事等をもとに地域の人たちの情報を目録化しています。これらの情報はインターネットからもアクセスできるようになっており、地域外からも元記事の複写依頼などが届くそうです。
 





(ジョンソン郡図書館ウェブサイトより http://www.jocolibrary.org/default.aspx?id=2168)
 
さらにその奥、レファレンス資料コーナーは、最近縮小され昔の半分程度の大きさになってしまったそうですが、それでもまだ大きなコーナーとして存在しています。資料の背表紙に色とりどりのシールが張られているのは、資料コーナー縮小のときにこれだけは残すと図書館員それぞれがつけたマークだとのこと。レファレンスライブラリアンたちの情熱が感じられます。
 

 

 
児童コーナー
訪問した時間が夕刻から夜にかけての時間だったためか、宿題をする子供たちの姿がたくさん見かけられました。児童担当の図書館員に聞くと、宿題支援サービスはこの図書館の大きな柱になっているとのことで、毎日毎日同じ子供たちの顔を目にするわと、笑っていました。近くに学校がいくつもあり、学校が終わると子供たちがここに来て宿題をし、親が車で迎えに来るまで勉強したり遊んだりしているのが日常の風景だそうです。
 
また子供主導のプログラムにも力を入れていて、去年には、子供たちによるファッションショーも開かれたとのことでした。このファッションショーは、デザイナーもモデルも企画も皆子供がやるというもので、親子合わせて100人以上の参加があり、好評につき今年も開催するそうです。写真が壁に飾ってありましたが、プロの領域です。また、子供たちのエッセイや詩などを募り、年に一度本として刊行しているそうで、これも子供たちによって選定され、本に仕上げられるそうです。仕上がった本を見せていただきましたが、見事なものです。参加した子供たちにも配られているそうです。
 



 
感想
ビジネスライブラリアンのケンドラさん、地域資料ライブラリアンのスコットさん、ユースサービススペシャリストのケリーさんが、いろいろとお話してくださいました。どこからどうみてもすばらしい図書館なのに、皆さんの話の端々に、ここがまだ不満、ここは改善する予定、と織り交ぜられ、この図書館がどんどん成長しているのだということを感じました。これが、地域コミュニティーを作る図書館の図書館員のマインドなのでしょうか。パワフルでした。
 
写真スライドショー

 
参考
E631 - 先取りレファレンス: 公共図書館と地元新聞社の協同の実践(カレントアウェアネス-E)
http://current.ndl.go.jp/e631
 
 

2009/01/28

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コロラドの公的幸福の中心、デンバー公共図書館:現地レポート

コロラド州のデンバー公共図書館は、ロサンゼルスとシカゴの間の地域において最大の規模を誇る図書館であり、また2001年に"Award of Excellence for Library Architecture"(図書館建築賞)も受賞するなど、建築の側面からも評価の高い図書館です。デンバーで行われたALA冬季大会終了後、このデンバー公共図書館を訪問してみました。
 
詳細はこちらから。
 
Denver Public Library
http://denverlibrary.org/
 

 
簡単に歴史
デンバー公共図書館は、John Cotton Dana賞で今なお歴史になお刻む図書館員ジョン・コットン・ディーナによってその歴史の幕を開けました。ディーナによりデンバー高校の一角に開設された公共図書館は、その後1910年にアンドリュー・カーネギーの資金提供により建て替えられました。このカーネギー図書館の建物は45年間使用されましたが、スペース不足が深刻となり、1956年にはカーネギー図書館の2倍の広さを誇る新しい図書館を建築しました。そのスペースもさらに小さくなり、1990年、9160万ドルの新図書館建設費用が予算化され、1995年に現在の建物が開館しました。
 
ディーナにより始められた”Center of Public Happiness”(公的幸福の中心)としての図書館は、着実に市民の生活に深くかかわり、地域の重要な公共機関として根付き、発展を遂げてきました。
 
荘厳
巨大な建築物が林立するダウンタウンの中心部に位置するため、概観の大きさをあまり意識することなく近づきましたが、飾り気のない裏手の入り口をくぐったとたんそこには、パブリックスペースである4階まで吹き抜けの荘厳なロビーが広がっていました。実際この建物は巨大で、540,000平方フィート(5万平米)の広さをほこり、地上7階のほか地下には閉架書庫があります。
 

 
ロビーを覗く通路側はすべて学習スペースとなっており、訪問した平日夕方の時間でもほとんど全ての座席が埋まっていました。
 

 
この巨大な図書館で、ここまで人がたくさんいるように感じられるのは、驚きでしたが、実際数値を確認して思わずうなづいてしまいました。レファレンスカウンターには行列ができ、500端末以上あるコンピュータも多くが埋まり、巨大な資料室は多くの市民で活気に満ちていました。(このあたり、写真がとれませんでした。)
 

(Denver Public Library のウェブサイトより)
 

 
無線は、図書館カードをもっていなくても無料でつかうことができます。ただ、登録が必要で、氏名、住所など必要な事項を登録する必要がありました。ピッツバーグの住所を登録したのですが、そういう利用者もおおいのか気になるところです。
 

 
連邦政府刊行物寄託図書館(FDLP)としての姿
 
デンバー公共図書館は、児童書、一般図書などの充実もさることながら、連邦政府刊行物寄託図書館の1つとして、重要な役割をになっています。連邦政府刊行物寄託図書館は、現在全米に1257館あり、そのうち51館は”地域寄託図書館”とよばれ、全ての政府刊行物を保有する特別な位置づけになっています。地域寄託図書館は、特定分野の資料のみを保有するその他の寄託図書館のバックアップを行う役割をになっています。この51館の多くは、大学図書館が指定されていますが、4館のみ公共図書館がになっているところがあります。そのひとつがデンバー公共図書館です。
 

("Regional Depository Libraries in the 21st Century: A Preliminary Assessment"より)
 
地域寄託図書館を見学するのは初めてでしたが、利用率が決して高いとはいえない政府刊行物を、広大なスペースに開架している姿勢に、デンバー公共図書館が寄託図書館として果たしてきた役割の大きさを実感することができました。
 

 

 
ただ・・・・。
 
他の政府刊行物寄託図書館と同様、デンバー公共図書館も、市民のニーズを評価し、有限なスペースの最適な利用方法を模索する中で、現在開架されている政府刊行物のほとんどを閉架書庫に移動させることを決定したそうで、このスペースに入り込むのは、すでに500台以上設置されていてもなお足りていないと評価されたコンピュータ端末だそうです。
 
このことを教えてくださったベテランの寄託図書館員は、すこしため息まじりでした。ネット時代にその位置づけを見直されつつある政府刊行物寄託図書館。その現場を垣間見た気がしました。
 
写真スライドショー

 
参考:
GPO、全米の連邦政府寄託図書館の現況調査報告書を公表(カレントアウェアネス-R)
http://current.ndl.go.jp/node/11576

2009/01/27

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ALA冬季大会2009:Innovative社のライス・メイジャー氏の話を聞いてきた


Encoreの開発を行い注目を集めるInnovative社ですが、その製品の1つContent Proのプロダクト・マネージャーのプレゼンを聞いてきました。プレゼンのタイトルは、"Digitization and harvesting : promoting your local collection"。さすが注目企業の1つとあって、50席ほどの席はかなりうまっていました。内容は、公共図書館や大学図書館が行っている地域資料、特別コレクションの電子コレクションのプレゼンスをいかにたかめるかという話でした。(The Photo from "What's Brewing")
 
詳細はこちらから。
 
利用のフローに置こう
 
最近、ピッツバーグ公共図書館のEncoreのインターフェースを見ていて感じていたのは、デジタルコレクションのプレゼンスが非常に高いことでした。実はここには、Innovative社の戦略があり、Content Proによる地域コレクションデジタル化の促進を進めること、さらにそのデータをOAI-PMHで吸い上げ、統合検索をすることを可能にすること、そしてそれらを図書館の検索ボックスから検索可能にすることで、利用者が、図書館の蔵書に加えて豊かな電子図書館コンテンツを特別な知識なく入手できるようにすること、が狙いとなっています。
 
確かに米国の公共図書館では、電子図書館を構築する動きが、大きな図書館にとどまらず、小さな図書館でも盛んになってきており、それを支援するContent Proのようなソフトウェアも普及してきています。これらの図書館にとっての次なる課題は、せっかく作ったそれらのコンテンツが有効に活用されることです。もちろんメタデータの仕組みを整えたり、SEOを行うことも考えられますが、それだけではまだ、調べ物をしている本来のターゲットに届くとはいえません。そこに目をつけているのがInnovative社の戦略といえると思います。電子図書館コンテンツを、利用者の利用の流れの中においてあげること。とても正論であると思います。
 
メイジャー氏は、例として、例えばA図書館でリンカーンのコンテンツをもっている、B図書館も、C図書館ももっている、このようなときに、それらを統合してA図書館、B図書館、C図書館のすべての図書館の”OPAC”(もはやOPACのカタログの概念がメタデータの世界にまでひろがっていますが。。)から検索できるようになれば、みんなハッピーだよね、と説明していました。確かに、坂本竜馬の特別コレクションのデジタルデータが、OPACから図書館蔵書とともに簡単に統合検索できたら便利です。
 
また、メイジャー氏は、コンテンツのプレゼンスをより高め、さらに利用者との能動的な関係を築いていくためにも、ソーシャルタギングの仕組みが重要になることも説いていました。説明では米国議会図書館が行ったFlickrプロジェクトを引き合いに出し、米国議会図書館がユーザーとここまで活発な関係をもったことはいまだかつてなく、タグのクオリティ以上に、このパブリック・リレーションの成功はもっと評価されてよいものであるとし、同じソーシャルタギングの仕組みをもつEncoreの必然性を説明していました。
 
思ったこと
 
図書館は昔、市民が情報を入手する最大の情報源でした。情報の所在のモデルは、図書館が中心にあり、そこに市民が集まるというイメージでした。それが、出版文化の発展、書店の充実、さらにはインターネットの登場にいたる、様々な要因で、いつのまにやら、図書館は市民が情報を入手する小さな1つの手段にしか過ぎなくなりました。モデルは、利用者が中心になり、利用者が好みの情報源にあたるというものに変わりました。その中で、この10年ほどの間、図書館は、どう”本”を読ませるのかに苦心し、OPAC開発はある種の閉塞感、あるいは限界の意識があったような気がします。
 
ライス・メイジャー氏のプレゼンを聞いてみて、米国の図書館のOPACは、図書館が自分たちの所蔵している図書館資料の所在を特定させるための道具ではなく、利用者が探したいと思う全ての情報を見つけることを手伝う検索インターフェースになるよう、目的を変えてきているのだと感じました。
 
利用者は、図書館にいけば、あるいは図書館の”OPAC”にいけば、そこから学校の課題に必要な情報、レポートの作成に必要な情報、その他様々な目的にあった情報が、媒体の別に関係なく引き出せる。そんなものを米国の公共図書館は要求していて、それにむけて各社開発競争にしのぎを削っているのかもしれません。今、次世代OPACと呼ばれているPrimoもしかり、AquaBrowserもしかり。いずれもファセット検索がいい突破口になっていますね。
 
雑感ですが。
 

2009/01/26

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ALA冬季大会2009:ノーベル平和賞受賞者ムハンマド・ユヌス教授の講演

ALA冬季大会の二日目の午後、会長プログラムの1つとして行われたムハンマド・ユヌス教授の講演を聴いてきました。「貧困はシステムが産み出すもの、貧困を撲滅するためにはシステムを変えればいい」、「いつか貧困などというものがなくなり、貧困とは何かについて展示する貧困博物館が作られる日がくるといい。」と、力強く壮大なメッセージを、優しく語り掛ける教授の姿に、心から感動しました。
 
詳細はこちらから。
 
ムハンマド・ユヌス教授は、すでに知られているように、2006年のノーベル平和賞受賞者です。当時西側の人にはほとんど知られていませんでしたが、受賞と、その著書"Banker To The Poor: Micro-Lending and the Battle Against World Poverty"と、"Creating a World Without Poverty: Social Business and the Future of Capitalism"の著書によって、広く知られるにいたっています。

講演の内容は、まさに教授の活動そのもののお話であり、生の声を聞こうと、広い広い会場にはたくさんの図書館員たちが集まり話を聞き入っていました。私も、この日の朝、会場となったデンバー・コンベンションセンターの前の道路に家をなくされた方がうなだれているのを見かけ、このデンバーでもそういう現状があることに心が痛みました。そんなこともあり、このプログラムはどうしても会場にいたいとおもいました。おそらく会議に参加した多くの人たちが同じ風景をみていたはずの米国図書館員の皆さんは、教授の話をきき、総立ちのスタンディング・オーベーションとなりました。
 

 
講演の内容(簡約形式)
 
私の活動は、彼がバングラデシュが1971年に正式に国になる前にさかのぼる。当時は東パキスタンとよばれ、パキスタン軍による侵攻がなされる厳しい時代であった。バングラデシュ建国後も貧困問題が深刻であり、多くの人が飢餓のために死んでいっていた。私は、自分が教師として教えていることが無益であることに幻滅し、現実問題の前にまったくの無力の存在であることに打ちのめされていた。そして自分が今学びそして知っていることがいったい何のためのものであるのかを考えるようになった。
 
私は人々の中に入っていき、少しでも生活がよくなるためには何が行われればよいのかを聞き始めた。そしてしばらくして、多くの人が”わずかな”金額の借金のために、金貸しの奴隷と化してしまっている現状を知った。そこで、わずか27ドル(3000円)ほどのお金を借りているために奴隷労働者となっている人たち42人に、借金を返すための27ドルを貸し与えた。彼らは借金を返し、小さなビジネスをはじめ、そしてやがてその27ドルを返済してくれた。
 
その後私は、さらに何ができるのかを考えた。既存の銀行家たちが再三口にしていた”貧乏人には金を貸すことはできない”ということを考え、私は貧しい人たちへの保証を提供することを考えた。私は銀行家たちの考えることとは反対のことをやっていた。都市で金を貸すのではなく、村で金を貸し、男性に金を貸すのではなく、女性に金を貸した。女性たちはそれまでお金の扱い方など知らなかったけれど、教育のために使うことを覚え、そのために多くの子供たちが学校にいくことができた。女性はそれまで自分がお金を使えることに自信がなかったけれども、最初の人たちの成功に勇気付けられ、多くの人たちが試すようになった。今日7500万人以上の女性がお金を借りていった。そして99%以上の人がそのお金を返済してくれた。
 
人はマニー・メーカーではない。人は金への欲望だけで生きているのではない。人は多面的な存在である。ふるい資本主義の考え方に縛られず、その事実を理解することで、貧困問題は解決されていく。貧困はなぜ生まれるのか。貧困はシステムが産み出している。ならば、貧困を撲滅するために、システムを変えればいい。私たちのマイクロ・クレジットの仕組みは、今多くの貧困国で使われるにいたっている。いつか貧困などというものがなくなり、貧困とは何かについて展示する貧困博物館が作られる日がくるといい。人々はいつか、貧困というものを知るために、博物館にいって学ぶことになる。そんな日がくればいい。
 
感想
 
寒いデンバーの町。この講演の翌朝は、デンバーは豪雪に見舞われました。私も会議にいくために氷点下5度の雪の中を身をすぼめて歩いてコンベンションセンターに向かうと、昨日の路上の人は、雪降りしきる道路の、地下から蒸気がでるところに座り、蒸気に手をがさしていました。
 
ユヌス氏は、「問題は難しい。しかし解決策は単純だ。私が27ドルを与えれば、問題を解決できる。そして私はそれをやった。」という言葉がよみがえりました。バングラデシュの社会で見出された解決策は、巨大先進国アメリカ社会の貧困には通じないといえばそのとおりなのかもしれません。講演をきいた図書館員たちもおそらく同じように複雑な気持ちになったのだろうと思いました。
 
図書館と貧困問題。運営を税金だけに依存せず、納税者のための図書館という論理が必ずしも通用しない公共図書館が米国には多くあります。納税者のための図書館ではなく、むしろコミュニティを育てることを掲げる米国の公共図書館。彼らはこの状況にどのように解決策を模索していくのでしょうか。ALA会長プログラムとして今回このテーマが取り上げられたことのインパクトは、近いうちに形になっていくものと思います。
 
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ALA冬季大会2009二日目:Reference Extract プロジェクトについて、ランケス教授の話を聞いてきた

レファレンスサービスの記録などを活用してより信頼性の高いサーチエンジンを作ろうという構想を描いているReference Extractプロジェクト。ALA冬季大会のOCLC Question Pointのプロデュースで、プロジェクトの中心人物であるシラキュース大学情報学校のDavid Lankes教授のプレゼンテーションが行われたので、会場にいって話を聞いてきました。
 
詳細はこちらから。
 
Multilingual, Multinational Networks and Reference Extract
http://blip.tv/file/1701683
 
プロジェクトの要約を聴いた瞬間に、「まぁ、無理だよね。」という反応になるような気がします。私もその部類ですが、彼の大きなアイデアが現実的かどうかは別として、いつもそこから何かスピンアウトして現実になるものがあるような気がして、楽しみです。そんな要素を今回のプレゼンの中にも探してみました。
 
話の内容はまっすぐで、Reference Extractが何であるのか、そして何故とりくまなくてはならないのかを語るものでした。

何?
レファレンスサービスなどにおいて、図書館員は、信頼のおける情報提供を行っていますが、その営みを、大手の検索エンジンがやっているように、トポロジーとして捉えて、それを検索エンジンに適用しようということのようです。開発するのはこのトポロジーエンジンの部分で、これをAPIによって他のものにつなぐことを考えているようです。(私はシステムのことはよくわかりませんが。。。間違って理解してたら教えてください。)
 

 
具体的な提供方法はいろいろと考えられると思いますが、例えば・・・

1)普通の検索エンジンのように提供する方法


2)大手の検索エンジンに図書館員がつかっている情報源だということを示したり、ランキングに影響したりする方法


3)OPACの検索画面などに、図書館員がつかっている情報源だということを示し、さらに関連する外部の情報源を指し示す方法

 
インターフェースはもちろんこの段階で洗練されているはずはありませんが、結構現実的に使えそうな印象があります。
 
なぜ?
プレゼンでは、図書館員が”信頼のおける”職能集団であることを強調していました。「ベンチャーキャピタリストも、学者も、CIOも、ブロガーも、答えをいうけれど”信頼できない”という評価があり、それに対して図書館員が”信頼のおける”情報プロバイダーであるというのは、様々な研究でいわれてきている」ので、「その評価を追い風にして機械的な検索エンジンの信頼性向上に寄与していってもいいじゃないか」という論理展開でした。この主張は、ある程度うなづけるところはあります。
 
感想
個人的には、このようなトポロジーエンジンにより検索エンジンやOPACにアクセントをつけることは、情報検索者の批判的な情報解釈と自律的な情報収集を促すとおもうので、なかなかいいと思います。特にOPACの検索結果へ結びつける仕組みは、次世代OPACの開発状況をかんがみると、表示を工夫すればなかなかおもしろいとおもいます。
 
Question Pointを通じてそのKnowledge Base(Q&Aデータベース)が存在し、そのデータが使用しうること、さらに次世代カタログで図書館員などによる解説などの自由記述が増えていったりすることを考えると、あながち夢のような話ではないかもしれません。国立国会図書館のレファレンス協同データベースなどのデータ活用にもなにか示唆を与えるかもしれませんね。
 
Thanks to Dave,
Thank you for your allowing me to use the capture of your presentation on my blog.

2009/01/25

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ALA冬季大会2009初日:LCの新刊図書、LCの写真集

ALA冬季大会2009の大会にきています。米国議会図書館(LC)のブースをお邪魔してみました。LCは毎大会、チームを結成し、ブースで発表しています。気になっていたLCの出版をみてきました。
 
詳細はこちらから。
 
LCでは、世界最大の所蔵資料を活かした出版活動が盛んですが、様々な出版社や個人と協同して毎年何十冊もの写真集や書籍を刊行しています。写真の手前にColaの文字がみえる表紙の本が、今年刊行された図書のカタログです。
 

 
図書館員の方が、「この本はおもしろいわよ。」と手にとって薦めてくれたのは、”On These Walls”という写真集でした。
 
この写真集は、LCの3館トマス・ジェファーソン館、ジョン・アダムス館、ジェームス・マディソン記念館の建物の写真集です。LCにいったことのある人は知っていると思いますが、世界最大のコレクションを誇るLCは、それを包む建物もまた、様々な装飾品や彫刻、名言などが散りばめられた宝石箱のような建物です。この建物をずっと撮り続けていたCarol M. Highsmithさんが、今回、その写真を無償で寄贈し、このすばらしい写真集となりました。128ページの中に100枚のカラー写真が掲載され、お値段は$19.95です。
 

 
数多くのすばらしい写真集を所蔵する図書館。その図書館はまた被写体としての可能性を秘めているのだと改めておもいました。アメリカの図書館文化は、こんなところでも豊かです。
 
LCのブース。ブースもシックでいい感じのデザイン。LCはなぜにこんなにセンスがいいのだろう、といつもおもいます。

 
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ALA冬季大会2009初日:もろもろの準備、そして展示会オープン

2009年1月23日から28日まで開催される米国図書館協会(ALA)2009年冬季大会に参加するため、デンバーに来ています。ALAの大会に参加するのは2008年の年次大会に続いて2度目です。初回のときは、みるもの全てに圧倒されましたが、今回は少し落ち着いた目で見られそうです。
  
詳細はこちらから。
 

登録
 
予定通りデンバーのコンベンションセンターに午後3時に到着。今回は車での来場です。コンベンションセンターはデンバーの町の中心にあり、車どおりも激しく駐車も一苦労。それでも何とかメーター式の駐車スペースに停め、車の中でごそごそと着替え、いざ会場へ。
 
会場は、展示会オープンのテープカットを2時間後の5時15分に控え、すでに図書館員たちでごった返していました。それでも登録カウンターのあたりは、今回は不況で参加がすくないのか、それほど長蛇の列ができるというほどでもなく、穏やかな印象でした。
 
私は今回は事前に申込してあったので、事前に郵送されてきていた登録カードをもって、プログラムやもろもろの案内の入ったインフォメーションパッケージを受け取りに。前回は現地登録だったこともあり、いろいろと大変だったのですが、今回はスムーズに受け取れました。
 
オレンジ色のバックがトレードマーク。会場の外でも、これをもっていると大会参加者だとすぐにわかるので、すれ違うときに目が合ったりすると、軽く会釈をしたり、時には会話がはじまったりします。
 

 
コンベンションセンターのカフェはすでに参加者たちでいっぱい。旧友との再会を喜び合う姿もあちこちでみられ、また熱心にパソコンを広げ書き物をしている姿もあちこちでみられ、ALAの会議らしい雰囲気です。私も知り合いに出会うことができました。ピッツバーグ大学図書館情報学校の修士課程を無事に終えめでたくペンシルバニア州立大学のビジネススクールの図書館員になったと聞き、こちらもうれしくなりました。
 

 
  
名詞作り
 
会場に来る途中での図書館見学で名詞が少なくなってしまったので、近所のKinkoの場所を聞こうとインフォメーションデスクに歩いていくと、ビジネスセンターの文字が目に入ってきました。近寄って聞いてみると、荷物の発送サービスの他、コピーサービス、名詞印刷サービスなどもやっているとのこと。さっそくオーダーしました。
 
ALAの大会に来る多くの図書館員は、ここでたくさんの新しい図書館資料を購入したり、図書館関連企業のパンフレットや景品などを手に入れるので、郵送サービスはとても重宝します。このコーナーは今は静かでしたが、大会も終了に近づくとまた長打の列ができるものとおもいます。
 
名詞は、20分後にとりにおいでといわれました。70枚で14ドル。安い。半分くらいははけるようにがんばりましょう。
 

 
 
展示会場オープン
 
5時15分。テープカットが行われ、展示会場がオープンしました。まるで初売りのデパートのように、いっせいに図書館員たちが、展示会場へ流れ込みます。エレベータを上がって2階の展示会場入口にいくと、ギターをもったお兄さんがカントリーミュージックで歓迎してくれました。こういうことをやるのはデンバー界隈の図書館員に間違いない、たぶん。
 

 

 

 
今回の展示会への参加は、出版社、データベースベンダー、電子ジャーナルベンダー、図書館システムベンダー、米国議会図書館、図書館情報学校など、約450社・団体。初日は特に景品くばりゲットのために図書館員たちが走り回り、どこも大変な賑わいでした。私は今回のお目当てはシステム系のベンダーめぐりなので、賑わい過ぎる今日はどちらかというと記者きどりで眺めるという感じ。
 
アメリカのこの系統のイベントは、とにかく食べ物がおいしいのがすばらしい。会場で配られているチップスやサラダやらホットカスタードのデザートやらを食べながら、のんびり歩いてまわりました。
 
明日への準備
7時くらいまで会場をぶらぶらし、その日読みそうな資料やらパンフレットやらを集め、その後ホテルへ。ALAはとにかく同時並行で数多くのプログラムが開催されるので、いろいろと苦渋の決断をしなくてはなりません。プログラムをみたり、ネットで情報を集めたり、いろいろとしながら、最低限参加するものを決めていきます。
 
今回もお目当てのプログラムがおもいっきりかぶり、1つを断念。これほど大きな大会を開催できるのはすごいことですが、プログラムが多すぎるのもいかがなものか、という感じです。