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オンラインクラスの形式とニーズ
ピッツバーグ大学情報学校図書館情報学専攻は、遠隔教育に力をいれており、多くのクラスがオンラインで受講可能です。このため、遠隔地で在住の学生もおおく、授業によってはカリフォルニアやはてはニュージーランド在住の学生が登録していることもあるようです。例えば、日本でも有名なピッツバーグ大学医療センター(UPMC)を抱えていることもあり、医学図書館分野のコースが有名なので、これに関連するクラスには遠隔地の学生が登録しています。
オンラインで受講可能なコースには2種類あります。
1つは、オンラインスチューデントとオンキャンパススチューデントの両方が共存している形式です。授業ごとにやりかたは色々工夫されていますが、基本的には、対面の通常のクラスをビデオで撮影し、それを翌日にはオンラインに掲載し、オンラインスチューデントはそれをみてクラスに参加するという形式です。私が受講したクラスの中では、半分がこの形式のものでした。
もう1つは、全員がオンライン・スチューデントのみのクラスで、一部のクラスがこの形式をとっています。私自身は、せっかくアメリカにいるので、このような授業はあまり取りたくないなとおもっていたのですが、経験のためにもと、1クラス、図書館経営の授業をこの形式でとりました。
以下この授業を紹介します。
オンラインクラスの実際-図書館経営論
図書館経営のクラス、正式名称は、”Managing Libraries & Information Systems & Services in Changing Environments"で、全員必修の基礎科目となっています。2009年春はオンラインのみの提供で、登録者数は、40名強です。
内容としては、図書館を取り巻く社会環境の変化が、図書館と利用者にどのようなインパクトを与えるのかを理解し、それをもとに実際の図書館経営を実践的に考えていこうというものです。具体的には、経営理論の理解、戦略的計画立案の重要性の理解とその計画立案のスキルの習得、資金調達のスキルの習得、予算管理の習得、利用可能な経営資源と業界団体を知ること、協同プロジェクトにようする対人コミュニケーションの技術の向上、などです。並べて書くとお題目が並んでいるだけのようですが、実際のクラスはかなりこれに忠実で、”スキルの習得”と書いているものは、本当にそのスキルを習得したことを、レポートなどを通じて証明することが求められます。
インストラクターは、スーザン・アルマン博士で、ピッツバーグ大学の遠隔教育を早くからリードしてきた人で、このテーマで何本か論文も書いています。学生に対する要求事項が大量・多岐なので、学生からはちょっと恐れられています(笑)が、非常に入念にクラスが編成されていて、感心させられること多々です。
課題の内容(カッコ内は評価対象となるアウトプット)は以下のとおりです。
- QUOTABLE QUOTES: 用意された有名な引用文について論じる(小レポート)
- MANAGEMENT STYLES: 著名な経営理論家・実践家の経営理論・哲学を論じる(小レポート)
- PROFESSIONAL ASSOCIATION ASSIGNMENT/INTERVIEW: 現職図書館長や経営人にインタビューする(中レポート)
- HOT TOPIC PRESENTATIONS:図書館経営分野のホットトピックについて3,4人のグループでプレゼンを作成し、クラスに提示し、一週間オンラインディスカッションをリードする。(プレゼン、ディスカッションリーダー、ディスカッション)
- MANAGEMENT PORTFOLIO: 実在もしくは仮想の図書館の、実際もしくは仮想のマネージメント・ポートフォリオを、3,4人のグループで作成する。(大レポート)
- GRANT PROPOSAL: 実際あるいは仮想の資金調達ニーズを設定し、その資金調達のためのプロポーザルを作成する。(大レポート)
2つのグループプロジェクトでは、グループメンバー間の契約文書を作成し、コミュニケーション手段、スケジュール、分担などを事前に決めるところから始まり、プロジェクト自体が、マネージメントの実践練習であり評価対象となっています。グループが崩壊すれば即単位喪失らしく、先の学期にとった友人は、これにはまってしまい卒業が延びたそうです。。実社会と一緒で、働かない人はほんとむかつくほど働かないので、結構どこのグループも衝突があるようです。
ホットトピックは、毎週持ち回りになっており、学期の間に1トピックを担当します。テーマは以下のとおりですが、最初の2週で”紛争”解決と、チーム構築が設定されているのが興味深いところです。実際、この2週のプレゼンはパワーポイント40スライド+ビデオつきという気合の入ったもので、これが学生の一種の共通言語となり、その後のプロジェクトマネジメントに大きく影響していました。(マネージメントポートフォリオのほうのグループプロジェクトで、私の入ったチームで、1人が働かず、もう1人がぶちぎれる、という”紛争”が勃発してしまったのですが、おかげさまで何とか紛争は収まりました。)
- 1週目:紛争解決
- 2週目:チーム構築
- 3週目:多様性
- 4週目:電子化
- 5週目:資金調達
- 6週目:図書館建築
- 7週目:ネットワーク
- 8週目:スタンダード
- 9週目:アウトソーシング
- 10週目:経営倫理
難しいのは、このコースがオンラインのみであるために、まったく学生同士が顔もバックグランドも能力もしらないまま、コミュニケーションをしていくところです。インストラクターいわく、オンライン環境で仕事をしなくてはいけないという”社会環境”を意識したものだそうですが、ほんと大変です。私の経験の限りでは、グーグルのメールアカウントを全員が取得し、共有ドキュメントをフル活用しながらやるのが一番すんなりいく形で、グーグル嫌いも説得されて使うようになっていました。(他の授業でグーグルのアカウントを強制的に取らせる授業があるので、学生のグーグルアカウントの保有率は非常に高いと思われます。一度、とある授業で挙手する機会があり、9割方手をあげていました。)
私は資金調達を担当したのですが、プレゼン作成はともかく、ディスカッションリーダーが大変でした。ディスカッションは、クラス40名がA、B2つのグループに分けられており、それぞれ20名ほどのメンバーのところに、作成したプレゼンを提示します。A、Bそれぞれの中、20名ほどがプレゼンにああだこうだと意見をいうので、ディスカッションリーダーは、それに対し回答を提示したり、逆質問したり、誘導したりしながらディスカッションを構築していきます。チームメンバー4人のうち3人がAに所属し、私だけがBだったので、1人でこの役をはめになり、1週間の責任期間で胃がいたくなりました。これも全部モニターされていて、評価対象。疲れます。
学生間の紛争からその解決までも含めて、経営の様々な側面が直接的・間接的に経験されるように仕組まれている、このクラス。考えたスーザンを尊敬します。