米国の図書館で急速に広まったゲーム関連サービスですが、公共図書館における主なサービスの柱は3つあります。1つ目は、図書館プログラムとしてのゲーム関連イベントの開催、2つ目は、ゲームソフトの貸出サービス、3つ目は、ゲーム機やオンラインゲームができるコンピュータなど図書館でゲームをする環境の提供です。このうち1つ目の柱であるイベントの開催において先鞭をつけたのは、アナーバー地区図書館でマリオカートダブルダッシュやダンスダンスレボルーションのトーナメント大会を開催したEli Neiburger(イーライ・ナイバーガー)氏です。このイーライ氏が、トーナメント大会の経験を元に、図書館で何故トーナメント大会をやるのか、何を使い、どのように運営するのかを解説した本「Gamers...in the LIBRARY?!」を出版しています。
詳細はこちらから。
Gamers...in the LIBRARY?!
http://www.alastore.ala.org/SiteSolution.taf?_sn=catalog2&_pn=product_detail&_op=2331「私の名前はイーライ。オタクです。」
序章でこのように自己紹介するナイバーガーさんは、1979年、5歳の時に
アタリ2600を父親からプレゼントされて以来ゲームにはまり1980年代はずっと任天堂にはまり、お小遣いをためてはソフトを買っていたそうです。任天堂のキャラのタトゥも入れている、自他共に認めるゲームオタクです。ミシガン州のアナーバー地区図書館でテクノロジー・マネージャーをしています。
日本の図書館でも少なからずみつけられそうなプロフィールです。
「むかしむかし、あるところにビデオゲームがたいそう好きな図書館の技術管理者がおりました。」
1.2でこのような語りで始まるゲーム・トーナメントの話は、2004年に初めてアナーバー地区図書館で開催されたゲームトーナメントの思い出話です。新しく雇ったピンクの髪のタトゥの入ったティーンサービスの女性図書館員(Erin Helmrichさん)の発言から始まったことやら、何を考えてどうやって企画を練っていったのかやら、事のいきさつを紹介しています。
それによると・・・
最初はとにかくゲームに関するサービスを始めようという思いつきから始まり、ゲーム・キオスクの設置やソフトの貸出などを考えたすえ、ゲームトーナメントを開催するという案がひらめいたそうです。それも、実験的な中途半端な企画をするのではなく、観客を巻き込んだ1シーズンかけて行う本格的なトーナメントにしようと思いついたのだそうです。
そして、この偉大なアイデアを実現するべく、地元ミシガン大学のアメフトチームの試合がある日を避けつつスケジュールをたて、体験を共有する場としての図書館らしくゲーム機8台をLANでつなぎ、その環境で動作するマリオカート・ダブルダッシュをトーナメントにつかうゲームに選び、地元の中学校などへの訪問時に子どもたちにトーナメント開催を宣伝し、ブログで子供たちからの質問に答え、そして2004年8月の開催にこぎつけたのだそうです。
景品には、レギュラーシーズンのトーナメントには、優勝70ドル、準優勝50ドル、三等30ドルのGameShopのギフトカードを、そしてグランドチャンピョン大会では、iPodやニンテンドーDSを用意しました。この費用は、図書館友の会からの資金提供でまかなったそうです。
第1回大会には42人の参加者があり、その後毎回2割ほどずつ参加者が増え、最後のグランドチャンピョン大会では、すでに出場の決定した30人のプレイヤーのほか、2枚のワイルドカードをめぐって60人以上の新しい参加者がしのぎを削るほど、大盛況となり、さらに地元のケーブルテレビも来て大会の模様はブロードキャストされたそうです。
「ティーン向けの図書館イベントとして、新しい可能性があることに気がつきました。」
初めてのゲームトーナメントは大成功のうちに幕を閉じましたが、その後もシーズン戦とオフシーズンの大会を開催し、そのたびごとに、子供から大人まで、ギャラリーも含めて多く人が集まっているそうですが、イーライさんたちが考える最大の意義は、ゲーム大会などを通じて図書館に通うことを覚えた子供たちが、図書館のことを気にかけるようになったことだそうです。
子供たちは、ゲーム大会以外のイベントにも顔を出すようになり、図書館にとても情熱的になり、トーナメントについてWikipediaに書き込みをし、”注目に値しない”とWikipediaの記述を削除した他人と議論し、ファンサイトを立ち上げイーライさんをモデレーターに招き、そしてどうしたらイーライさんたちのような仕事に就けるのか質問するようになったのだそうです。
ある親は、今まで図書館に連れて行っても、教会に行くのと同様に受動的だったものが、ゲーム大会を通じて子供たちが積極的な探求者になったと話してくれたそうです。
イーライさんは、ただ単に楽しいことがやりたいだけだそうで、このような効果はいい面にすぎないと控えめにまとめていますが、確かに、アナーバー地区図書館とその利用者にとって、大きな出来事であったことは間違いないようです。
イーライさんの本では、このような体験を振り返り、ゲームサービスを提供する意義や実践的なノウハウを解説しています。
参考
AADL-GT(Ann Arbor District Library Game tournament)
http://www.aadl.org/aadlgt図書館とゲームに関するポッドキャスト(カレントアウェアネス-R)
http://current.ndl.go.jp/node/7661?quicktabs_2=4