ALA冬季大会の二日目の午後、会長プログラムの1つとして行われたムハンマド・ユヌス教授の講演を聴いてきました。「貧困はシステムが産み出すもの、貧困を撲滅するためにはシステムを変えればいい」、「いつか貧困などというものがなくなり、貧困とは何かについて展示する貧困博物館が作られる日がくるといい。」と、力強く壮大なメッセージを、優しく語り掛ける教授の姿に、心から感動しました。
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ムハンマド・ユヌス教授は、すでに知られているように、2006年のノーベル平和賞受賞者です。当時西側の人にはほとんど知られていませんでしたが、受賞と、その著書"Banker To The Poor: Micro-Lending and the Battle Against World Poverty"と、"Creating a World Without Poverty: Social Business and the Future of Capitalism"の著書によって、広く知られるにいたっています。
講演の内容は、まさに教授の活動そのもののお話であり、生の声を聞こうと、広い広い会場にはたくさんの図書館員たちが集まり話を聞き入っていました。私も、この日の朝、会場となったデンバー・コンベンションセンターの前の道路に家をなくされた方がうなだれているのを見かけ、このデンバーでもそういう現状があることに心が痛みました。そんなこともあり、このプログラムはどうしても会場にいたいとおもいました。おそらく会議に参加した多くの人たちが同じ風景をみていたはずの米国図書館員の皆さんは、教授の話をきき、総立ちのスタンディング・オーベーションとなりました。
講演の内容(簡約形式)
私の活動は、彼がバングラデシュが1971年に正式に国になる前にさかのぼる。当時は東パキスタンとよばれ、パキスタン軍による侵攻がなされる厳しい時代であった。バングラデシュ建国後も貧困問題が深刻であり、多くの人が飢餓のために死んでいっていた。私は、自分が教師として教えていることが無益であることに幻滅し、現実問題の前にまったくの無力の存在であることに打ちのめされていた。そして自分が今学びそして知っていることがいったい何のためのものであるのかを考えるようになった。
私は人々の中に入っていき、少しでも生活がよくなるためには何が行われればよいのかを聞き始めた。そしてしばらくして、多くの人が”わずかな”金額の借金のために、金貸しの奴隷と化してしまっている現状を知った。そこで、わずか27ドル(3000円)ほどのお金を借りているために奴隷労働者となっている人たち42人に、借金を返すための27ドルを貸し与えた。彼らは借金を返し、小さなビジネスをはじめ、そしてやがてその27ドルを返済してくれた。
その後私は、さらに何ができるのかを考えた。既存の銀行家たちが再三口にしていた”貧乏人には金を貸すことはできない”ということを考え、私は貧しい人たちへの保証を提供することを考えた。私は銀行家たちの考えることとは反対のことをやっていた。都市で金を貸すのではなく、村で金を貸し、男性に金を貸すのではなく、女性に金を貸した。女性たちはそれまでお金の扱い方など知らなかったけれど、教育のために使うことを覚え、そのために多くの子供たちが学校にいくことができた。女性はそれまで自分がお金を使えることに自信がなかったけれども、最初の人たちの成功に勇気付けられ、多くの人たちが試すようになった。今日7500万人以上の女性がお金を借りていった。そして99%以上の人がそのお金を返済してくれた。
人はマニー・メーカーではない。人は金への欲望だけで生きているのではない。人は多面的な存在である。ふるい資本主義の考え方に縛られず、その事実を理解することで、貧困問題は解決されていく。貧困はなぜ生まれるのか。貧困はシステムが産み出している。ならば、貧困を撲滅するために、システムを変えればいい。私たちのマイクロ・クレジットの仕組みは、今多くの貧困国で使われるにいたっている。いつか貧困などというものがなくなり、貧困とは何かについて展示する貧困博物館が作られる日がくるといい。人々はいつか、貧困というものを知るために、博物館にいって学ぶことになる。そんな日がくればいい。
感想
寒いデンバーの町。この講演の翌朝は、デンバーは豪雪に見舞われました。私も会議にいくために氷点下5度の雪の中を身をすぼめて歩いてコンベンションセンターに向かうと、昨日の路上の人は、雪降りしきる道路の、地下から蒸気がでるところに座り、蒸気に手をがさしていました。
ユヌス氏は、「問題は難しい。しかし解決策は単純だ。私が27ドルを与えれば、問題を解決できる。そして私はそれをやった。」という言葉がよみがえりました。バングラデシュの社会で見出された解決策は、巨大先進国アメリカ社会の貧困には通じないといえばそのとおりなのかもしれません。講演をきいた図書館員たちもおそらく同じように複雑な気持ちになったのだろうと思いました。
図書館と貧困問題。運営を税金だけに依存せず、納税者のための図書館という論理が必ずしも通用しない公共図書館が米国には多くあります。納税者のための図書館ではなく、むしろコミュニティを育てることを掲げる米国の公共図書館。彼らはこの状況にどのように解決策を模索していくのでしょうか。ALA会長プログラムとして今回このテーマが取り上げられたことのインパクトは、近いうちに形になっていくものと思います。
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2009/01/26
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